JSME関東支部シニア会からのお知らせ

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シニア会たより 第25号

遥かなる旅の記憶―中国・長江三峡クルーズ紀行

今野 泰宏

【カテゴリー:体験・旅行記

 書斎に貯まった書類などの整理をしている。古い写真を見ながら20数年前にタイムスリップして、遥かなる旅の記憶をたどってみた。1999年の夏、「三峡クルーズの旅」に参加した。中国語教師が同行し、語学研修と観光を兼ねた2週間の旅。

長江三峡クルーズ、旅の概要

 三峡クルーズは、重慶市から湖北省武漢市まで約1,370km長江を下る3泊4日の船旅。(図1)長江三峡は、瞿塘峡(略図➂)、巫峡(④)、西陵峡(⑧)の三つの渓谷の総称で、雄大な長江の流れに険しい峰々の断崖絶壁が連なり、三国志の舞台となった遺跡や寺廟が点在し、悠久の歴史を刻む名所旧跡が多い。当時、宜昌市三斗坪に三峡ダム(⑨)が建設中で、その見学も旅の目玉の一つ。ダム建設により2003年から長江の水位上昇が始まる。大自然の景観を堪能した後、武漢から上海へ飛び、大都会の様子を見聞する。

図1 三峡クルーズのルート

旅の始まり、上海から重慶

 旅は成田から上海への一人旅で始まった。旅の参加者は私と福岡から1名、名古屋から10名の計12名。名古屋便が遅延したので、翌朝、福岡Kさんと上海虹橋空港から重慶へ二人旅。名古屋組は重慶に夜遅く到着した。
 重慶は河川交通の要衝であると同時に重工業都市。市の中心街は長江に嘉陵江が合流する三角形の地形に開けた起伏の多い坂の町で別名山城。重慶到着後、直ぐに市中心の最高部・鵝嶺公園に案内され、展望台から東方向に長江と嘉陵江の流れと市中心街を一望した。

重慶、中国革命歴史の足跡を訪ねて

 3日目、午前中は中国語授業、長江流域の文化と歴史の話。午後は自由行動、初日であり全員一緒にバス乗車を体験。行先は解放碑広場。バス番号と行先表示を確認して乗車。解放碑広場は高層ビルの多い繁華街、歩行者天国、各人自由に百貨店・書店などを歩き回った。
 4日目午後はKさんと二人で中国革命歴史の足跡を訪ねた。中山四路の曽家岩50号(周恩来公館)と桂園(毛沢東蒋介石が協定を結んだ場所)。中山四路は街路樹が美しい落着いた街並み。翌日は重慶郊外の紅岩革命記念館(八路軍重慶駐在所)を訪問、黒く荘厳で質素な建物。バス乗場を探したり道に迷ったりしたが、歴史ある街並みの散策を楽しんだ。

長江三峡クルーズ

 6 日目朝、クルーズの出発は重慶朝天門埠頭から、沖合に停泊した遊覧船に浮橋を渡って乗船。遊覧船は一部屋2 名、窮屈だが展望良し。最初の下船は豊都。道教と仏教の寺廟、冥 界入口のある鬼城に登り、天子殿の閻魔大王像に、時が来たらよろしくと合掌礼拝した。
 翌朝、重慶から445km、瞿塘峡の起点・奉節(①)に停泊。高い丘陵の上に高層ビル群が建設中で、三峡ダム完成後に水没する街の移転先。河岸の斜面に135m、175m と表示の看板があり、2003 年、2009年に水没する標高を示していた。(図2)奉節で小型船に乗換え5km 下流白帝城(➁)へ。白帝城三国時代の英雄・劉備の終焉の地、別名は詩城。唐代詩人が三峡を詠んだ詩碑が並んでいた。白帝城三峡ダム完成後、半島から孤島になる。

図2 奉節の町と遊覧船
図3 白帝廟入口脇:李白「下江陵」詩碑
李白「下江陵」詩碑、周恩来 揮毫 (図3)
李白「下江陵・早発白帝城
朝辞白帝彩雲間、千里江陵一日還。
両岸猿声啼不住、軽船已過万重山。

瞿塘峡(➂):全長8㎞、三峡の中で最も狭く雄々しく険しい峡谷。李白「下江陵」は瞿塘峡の最狭部の情景という。北岸は削ったような断崖の赤甲山、南岸は高い峰の白塩山、高さは1,000mを超える。滔々と流れる長江は、細い帯のような渓谷に流れ込み、川幅は100mまでに迫る。この迫力、壮大なパノラマの素晴らしさに圧倒された。(図4)約20分で通過。

図4 瞿塘峡の最狭部の景観
(下流側から)
図5 神農渓の美しい断崖絶壁
 

巫峡(➃):全長44km。南北両岸に巫山十二峰の奇峰が連なる。北岸の標高1,020mの神女峰(⑤)の頂きには約10m高さの神秘的な石柱・神女があり、三峡の航路の安全を永遠に保つという。巫峡の下流・巴東(⑥)で連絡船に乗り換えて神農渓(⑦)へ。狭い渓谷を20kmほど小舟で漂流し、美しい断崖絶壁、青く澄んだ水の流れを楽しんだ。(図5)
西陵峡(⑧):全長75km、七つの渓谷、浅瀬や曲がりが多く険しい急流が続く。兵書宝剣峡、牛肝馬肺峡など渓谷の険しく切立った岸壁、山の様子は美しく飽きずに見とれていた。
三峡ダム(⑨):翌日予定の三峡ダム見学が早まり小型バスでダム展望台に到着したのは夜8時過ぎ。強いライトに浮ぶ工事現場を見て、スケールの大きさを実感した。 翌朝、目覚めると三峡遊覧の終点・宜昌(⑩)に停泊中。長江は山岳地帯から平野地帯に入り、川幅は倍以上になった。9日目正午、武漢港に到着、クルーズ船旅が終了した。

上海、一人歩き

 11日目武漢から上海へ、4泊。蘇州観光等の団体行動以外はバスを利用して一人歩きに挑戦した。人民広場から南京東路を外灘まで歩いた。街は人波に溢れ、改築中建物が多い。黄浦江対岸には以前の出張時には無かったテレビ塔や高層ビルが建ち並び、別世界に来た印象。発展中の中国の勢いを強く感じた街歩きだった。

おわりに

 長江三峡では大規模で美しい中国の自然に驚嘆し、重慶武漢・上海では近代化へ発展途上の中国の活気を直接肌で感じることができ、心に残る旅であった。目をつむれば、渦巻く長江の流れの音が聞こえるような気がする。